バラ積みピックは、「実用化目前」と言われ続けてすでに長い年月が経ちました。多くの自動化エンジニアにとって、その言葉を何度聞いてきたか思い出せないほどでしょう。 この10年で技術は大きく成熟し、現在のビジョンガイド型システムは、実際の生産現場で使えるレベルに到達しています。
しかし、「動くシステム」と「工場で安定して動き続けるシステム」の間には、ベンダーが事前にはあまり語らない大きな隔たりが、今なお存在します。私たちは世界中の製造現場でビジョンベースのピッキングセルを導入し、累計3,000万回以上のピッキングを本番環境で実行してきました。その中で得られた知見こそが、本ガイドの土台です。 ここで扱うのは、管理された検証環境で「できること」ではありません。照明条件が変わり、部品にばらつきがあり、時にはメンテナンス担当者がカメラ筐体を拭いてしまう——そんな実際の工場で、ビンピッキングシステムが直面する現実です(この話はまた別の機会に)。
プロジェクトの成否を分ける判断は、意外にも目立たないところで下されます。セル設計、グリッパの選定、インテグレーション計画、そして保守・運用ルール。ロボットが最初のピックを行うよりずっと前、そして稼働開始後の長い期間にわたって、これらが結果を左右します。 本ガイドでは、そうしたすべての要素を網羅的に解説します。

ビジョン付きバラ積みピックは、正しい選択でしょうか?
最初に問うべきなのは、「ビジョンシステムをどう実装するか」ではありません。
そもそも、ビジョンシステムを導入すべきかどうかです。
ビジョンシステムが有効なのは、ワークがコンテナ内でランダムな位置や姿勢で置かれている場合や、あるいは基準位置が決まっていてもその周辺に位置ズレが生じ、ピック前に視覚的な補正が必要なケースです。
一方、ワークが常に固定された既知のパターンで整列しており、その状態が確実に維持されるのであれば、ビジョンは不要です。ロボットの動作を固定シーケンスとしてプログラムし、それを繰り返せば十分です。決定論的に解ける課題にビジョンシステムを追加しても、コストと複雑さが増すだけで、価値は生まれません。
他のソリューションのほうが適している場合
ワークの治具への投入が、加工時間全体に対してごく一部でしかない場合は、手動投入のほうが合理的なケースもあります。たとえば、溶接治具へのワーク投入に5秒かかり、溶接工程自体に60秒かかるのであれば、ビジョンを使って投入工程を自動化しても、投資対効果を正当化するのは容易ではありません。
上流工程で対応できるのであれば、ワーク位置が常に固定され、再現性が担保された入力トレイを採用するほうが望ましいと言えます。ランダムな状態への対処をセル内で行うよりも、セルに到達する前に排除するほうが、ほとんどの場合において有効です。
ボウルフィーダは、SKU数が限られており、小型で形状が単純、かつ破損しにくいワークに適しています。品種の多様性には対応しにくいものの、適用範囲内では高速かつ高い信頼性を発揮します。
プロジェクトが難航する兆候(初期段階で見えるサイン)
本格的にエンジニアリング工数を割く前から、問題の兆しが現れるケースもあります。
最も分かりやすいサインは、安定して認識・把持することが極めて難しいワークです。実現性検討(フィージビリティ)段階ですでに形状に不安を覚える場合、その懸念は量産段階で現実のものになる可能性が高いと言えます。
もう一つの重要な警告サインは、タスクの複雑さと見合っていないサイクルタイム目標です。吸着グリッパでピックでき、かつ高精度な位置決めを必要としない単純なワークであれば、4秒サイクルも現実的です。しかし、指先の精密な位置合わせや高精度な配置が求められる複雑なワークに対して、同じサイクルタイムを期待するのは無理があります。
100%の成功率を前提にするのは、慎重になる必要があります。
実運用では、十分にチューニングされた生産セルでも達成できる成功率は 98〜99.9% が現実的な水準です。理論上の上限である100%を前提に設計すると、問題を解決するどころか、かえって新たな課題を生むことが少なくありません。
形状・材質・重量が多岐にわたる数千種類ものSKUを扱う倉庫フルフィルメントのような用途は、業界でも最難関のアプリケーションの一つです。技術そのものは存在しますが、単一SKUや少品種の製造業アプリケーションと比べると、必要となるエンジニアリング範囲やチューニングに要する時間は大幅に増加します。
初めて導入するユーザーが陥りがちな誤解
初導入のユーザーに共通して見られる誤解が2つあります。
1つ目は、新しいSKUへの対応は簡単ですぐにできるという思い込みです。
AIを活用したアプローチによって以前より容易になっているのは事実ですが、常に短時間で完了するわけではありません。システム構成やワークフローによっては、新しいワークの追加に数分で済む場合もあれば、数日を要することもあります。また、ケースによってはCADデータの提出や、有償での再学習が必要になることもあります。
2つ目は、初期状態のままで100%の認識率が達成できるという期待です。 実運用を前提とするのであれば、チューニング期間を織り込んだ計画を立て、デモ環境ではなく、実際の生産現場に即した受け入れ基準を設定することが重要です。
バラ積みピックシステムに含まれるもの
バラ積みピックはしばしば「カメラ+ロボット」として語られますが、実際にはそれ以上の要素で構成されています。
完全なシステムには、ロボットアーム、3Dカメラ、シーンを解析してピッキング指示を出すAI搭載コントローラ、エンドエフェクタ、照明、ロボットスタンドやカメラガントリー、投入・排出用コンテナ、グリッパ、電気制御盤、さらに安全柵やライトカーテンなどの安全設備といった、機械・電気の広範な構成要素が含まれます。
ビジョンと判断の部分を担うべく、Eureka AIビジョンシステム はEureka 3D カメラ と Eureka コントローラを統合しています。 しかし、プロジェクト全体で見れば、機械設計や電気設計のスコープは非常に大きく、計画段階で過小評価すべきではありません。
エンジニアリング工数はどこに費やされるのか
バラ積みピックセルにおけるエンジニアリング工数の多くは、必ずしも統合やソフトウェア設定そのものではありません。 実際には現場でのテスト、想定外ケースへの対応、そして細かなチューニングに最も多くの時間が費やされます。この工程こそが、バラ積みピックプロジェクトにおいて最も一貫して過小見積もりされがちな部分です。
現実的な導入スケジュール
オフサイトでの準備期間としては、1〜2週間を見込むのが一般的です。この期間には、モデル学習、アプリケーションロジックの構築、カメラとコントローラの統合、初期チューニングが含まれます。
現地での設置および量産立ち上げには、さらに数日〜2週間程度が必要になるのが一般的です。 Eureka AI ビジョンシステム を用いれば、初日の午後に最初のピックを成功させることは現実的です。しかし、安定した量産性能に到達するまでにはもう少し時間がかかります。立ち上げがすぐに完了すると期待するのではなく、その期間をあらかじめ計画に織り込んでおくことが重要です。
ワークとコンテナの評価
ワークやコンテナの特性は、コードを1行も書く前、カメラを設置する前の段階で、実現可能性の大半を左右します。
自社アプリケーションの適性を最も早く、確実に把握する方法は、実際のワークを当社にお送りいただき、ラボでのトライアルを行うことです。これは当社ウェブサイトから申し込める無償サービスです。
実機を使ってデモを構築することで、机上検討だけでは再現できないレベルで、プロジェクトの難易度をお客様とEurekaの双方が正確に把握できるようになります。
バラ積みピックに適している条件
以下の特性を満たすワークは、バラ積みピックにおいて成功確率が高いと言えます。
- 反射や透過の問題がなく、カメラで明瞭に捉えられるマットな表面
- コンテナに対して十分なサイズがあり、安定して位置特定できるワーク
- 吸着パッドが確実に密着できる、平滑でフラットな把持面
- 高精度な位置決めを必要とせず、まとめ置きが可能な配置先
これらの条件をすべて満たすケースでは、チューニングも比較的容易で、量産運用においても挙動が予測しやすい傾向があります。
難易度を大きく高める要因
ワークが以下のような場合、バラ積みピックの難易度を大きく引き上げます。
- 反射の強い金属表面、透明または半透明の材料、光を吸収する暗色のワーク(これらの領域についても当社では大きな技術的進展を遂げています)
- 吸着カップでも2指のパラレルグリッパでも安定して把持できない不規則な形状のワーク。より複雑なエンドエフェクタ設計を必要とし、それに伴うコスト増加や機構的な脆弱性を招きます。
- コンテナサイズに対してワーク密度が高い場合。位置特定の難易度が上がります。
- 同じコンテナであっても、少数の大きなワークよりも、多数の小さなワークのほうが、問題ははるかに複雑になります。
さらに、高精度な配置が求められるケース、ピックから配置までの間にワークの反転が必要なケース、複雑な配置パターンを要求されるケースでは、サイクルタイムが延び、必要となるエンジニアリング範囲も拡大します。
避けるべきケース
展示会では印象的なデモになりがちですが、完全に透明なワーク、たとえば純粋なガラスワークは一般的にバラ積みピックには適していません。 一方で、半透明のワークについては難易度は高いものの、対応可能なケースも少なくありません。このカテゴリーに該当する場合は、プロジェクトに本格着手する前に、実現性評価(フィージビリティテスト)を行うことが、十分に価値のある投資となります。
重量とサイズに関する注意点
重量とサイズはいずれも、絶対値ではなく相対的な要素です。
サイズの難易度は、ワークサイズとコンテナサイズの比率によって決まります。たとえば、10cmのコンテナに対する2mmのワークであれば対応可能なケースが多い一方、1mのコンテナ内にある2mmのワークは、極めて難易度が高くなります。
重量の難易度は、使用するグリッパの種類に大きく依存します。大型の吸着パッドを使用できるのであれば、重量のある段ボール箱は比較的容易にピックできます。一方で、小型かつ重量があり、形状が不規則なワークは、標準的なグリッパでは対応しにくく、難易度が高くなります。
これらの要素は個別に判断するのではなく、必ず組み合わせて評価することが重要です。
ビジョンシステムの理解
バラ積みピックシステムについて適切な判断を下すために、必ずしもビジョンエンジニアである必要はありません。ただし、3Dビジョンがどのように機能しているかを大まかに理解しておくことは、よくある判断ミスを避けるうえで役立ちます。
一般的な2Dカメラが捉えられるのは、左右・上下の2次元情報のみで、奥行き情報は含まれていません。そのため、3次元空間内でワークの位置を特定し、ロボットに正確なピッキング動作を指示するには不十分です。
これに対して3Dカメラは奥行き情報を取得できるため、ワークの位置を正確に把握し、ピック動作を計画するために必要な空間情報をすべて提供します。
Eureka 3D カメラは、ステレオビジョンとAIベースの深度再構成を組み合わせた方式を採用しています。用途に応じて、
- インハンド型(ロボットアームにカメラを装着):推奨設置距離 300〜600mm
- 標準的な卓上ピッキング向け:同上 600〜1200mm
- 長い設置距離用:同上 1200〜4000mm
といった構成が用意されています。 作業距離やコンテナサイズに適したモデルを選定することは、プロジェクト初期における重要な判断ポイントの一つです。
工場で検出精度を低下させる要因
Eureka AI ビジョンシステムは、照明条件の変化に対して比較的高い耐性を持っていますが、それでも照明は依然としてトラブルの最も一般的な原因です。
たとえば、近くに想定外の光源があることで画像の一部が白飛びしたり、反射性の高いワークに予期せぬグレアが生じたりすることがあります。逆に容器が深く、上部からの照明が底まで届かない場合には、画像の別の領域が暗くなり、露出不足になることもあります。
これらの問題は、セル設計を工夫することで十分に対処可能です。しかし、開発環境よりも実際の工場のほうが、こうした状況ははるかに頻繁に発生します。そのため、問題が起きてから対処するのではなく、あらかじめ起こり得る前提で設計に織り込んでおくことが重要です。
キャリブレーション:実際に誤差が生じるポイント
キャリブレーションには、大きく分けて2種類があります。
カメラ内部キャリブレーションは当社の製造工程で実施されるもので、ユーザー側で再調整が必要になるケースはほとんどありません。
一方で、カメラとロボット間のキャリブレーションは、現場で実際に誤差が発生しやすいポイントです。よくあるミスとしては、ツール座標系やカメラ座標系の定義ミス、キャリブレーション姿勢のバリエーションやカバー範囲が不十分であることなどが挙げられます。 キャリブレーションの基本的な考え方を正しく理解することが重要であり、その点についてEurekaのエンジニアが常にサポートします。
精度:現実的に期待すべき水準
実運用における一つの目安として、システム全体の精度はコンテナサイズの約0.5%と考えるのが現実的です。たとえば、10cmのトレイであれば約0.5mm、80cmのビンであれば約4mmが目安となります。
配置精度の要件は、理論上の最小値ではなく、実際に達成可能な精度を前提に設計することが重要です。
セル設計の決定
優れたセル設計は、ほとんどのソフトウェアチューニング以上にサイクルタイムやピック成功率へ大きな影響を与えます。 また設置後に修正するよりも、導入前の段階で正しく設計しておくほうが、はるかに容易かつ効果的です。
カメラ配置
多くのアプリケーションでは、供給コンテナの上方にカメラを固定設置する構成が基本となります。適切な設置距離は、コンテナサイズ、ワークサイズ、使用するカメラモデル、そしてロボットサイズ(動作中にロボットがカメラに干渉しないようにするため)によって決まります。
一方で、複数容器を1台のカメラでカバーする必要がある場合や、ワークが小さくクローズアップでの観察が必要な場合、あるいは広いエリア内でワークの位置が予測しづらい場合などは、ロボットの手首に取り付けるインハンドカメラを検討することが有効です。
ただしインハンドカメラでは、撮像前にロボットがワーク上で一度停止する必要があるため、サイクルタイムが1〜2秒程度増加する点に注意が必要です。 固定カメラの場合は、ピックとピックの間に撮像を行いながらロボットを連続動作させることができ、この違いは処理量が増えるほど大きな差となって現れます。

グリッパの選定
ワークに十分な広さの平坦で滑らか、かつ汚れのない面があり、確実に密着できる場合は、吸着パッド(サクショングリッパ)が最適です。
構造がシンプルで動作も速く、ワークに対するカップの向きに厳密な制約がない点が特長です。
吸着が使えない場合は、2爪の平行グリッパを選択します。
これは指型グリッパの中で最も堅牢な構造を持ち、信頼性が高い方式です。
4爪グリッパなど特殊形状に対応するより複雑な設計も存在しますが、機構が複雑になる分、故障リスクも高まります。
一般的に、指型グリッパは吸着方式に比べてサイクルタイムが1〜2秒長くなる点を考慮する必要があります。

サイクルタイムを左右する要因
サイクルタイムに最も大きく影響する主な要素は、カメラ構成、グリッパの種類、ロボットの種類です。
固定カメラはハンド搭載カメラ(インハンド)に比べて1〜2秒高速です。
吸着カップは指型グリッパよりおおよそ1〜2秒高速です。
また、産業用ロボットは、設計上速度制限のある協働ロボット(コボット)より3〜4秒速く動作します。
これらの選択は組み合わさって影響します。
インハンドカメラ・指型グリッパ・協働ロボットを採用したセルは、固定カメラ・吸着カップ・産業用ロボットを用いたセルと比べ、サイクルタイムが大幅に長くなります。
適切に設計されたセルにおける現実的な目標値としては、
- 吸着カップで把持し、バルク配置するシンプルなワークで約5秒
- 指型グリッパによる精密な把持と高精度な位置決めが必要な複雑なワークで7〜8秒
が目安となります。
最も重要な設計原則
問題に機械的な解決策とソフトウェアベースの解決策が2つある場合は、機械的な解決策を選択してください。ソフトウェアによって多くの補償が可能ですが、物理的な設定に直接対処するほど確実に、または費用対効果の高い方法はほとんどありません。
インテグレーションの現実
これはベンダーのプレゼンテーションではほとんど語られない一方で、実際には多くの遅延が発生するポイントです。
バラ積みピックプロジェクトにおいて、スケジュールがずれ込む原因の多くは、このインテグレーション工程にあります。
よくあるインテグレーション上のボトルネック
最も多いのは、ロボットやPLCのソフトウェアが古いことです。
独自仕様で開発者にとって扱いにくいインターフェースの場合、回避策が必要となり、もともとタイトなスケジュールに数日単位の遅延が発生することも珍しくありません。
多くのコントローラと同様に、Eureka コントローラは、
- 最新の
- オープンなロボット/PLCアーキテクチャ
- EtherNet/IP、TCP/IP、Modbus といった標準通信プロトコル
と組み合わせたときに最も高いパフォーマンスを発揮するよう設計されています。
もし使用予定のロボットプラットフォームがAPIが閉じていることで知られている場合は、その分の追加工数をあらかじめ見込んでおく必要があります。
ネットワーク設定の問題も、繰り返し発生する要因です。性能不足のスイッチ、Wi-Fiの混雑、レイテンシ問題などは、実際に本番負荷がかかるまで顕在化しないことが多くあります。可能な限り、セル内の通信はCAT6以上の有線接続を使用し、Wi-Fiによる機器間通信は避けることが推奨されます。
システムインテグレータにとって現実的なエンジニアリング工数
標準的なセルにおける現実的な工数の目安は、以下のとおりです。
- 機械設計・組立:約1週間 (部材の製作・調達リードタイムとして4〜6週間)
- 電気設計・テスト:約1週間 (同様に4〜6週間のリードタイム)
- 現地での据付・テスト・立ち上げ:数日〜2週間
※通常、Eurekaエンジニアが立ち会い、立ち上げをサポートします。
これらは、不確実性を見込んで過度に余裕を持たせた見積ではなく、同種のセルを実際に数多く手がけてきた経験豊富なインテグレーターが、現場で実際に投入している工数を反映したものです。
パフォーマンスの期待値
実運用で期待できる性能
実運用環境では、サイクルタイム4〜8秒、ピック成功率98〜99.9%が目安となります。
これは、実際に稼働しているセル全体で観測されている一貫した数値です。
ラボデモでは、必ずしもサイクルタイムを限界まで追い込まないケースが多く、本番環境のほうがデモ時より高いパフォーマンスを発揮することも珍しくありません。 成功率についても、本稼働前に十分なチューニング時間を確保することで、デモ段階より向上する傾向があります。
本当に重要な信頼性指標
システムのライフサイクル全体で重要になる指標は、次の3つです。
- ピック成功率
- デバッグや不具合修正によるシステム停止時間
- 新しいSKU追加に伴うシステム停止時間
特に3つ目は、初期評価の段階では見落とされがちですが、システムが成熟するにつれて大きな影響を持つ要素になります。
新しいワークを追加するたびにベンダーの関与やCADデータ提出が必要なシステムでは、運用上の依存関係が積み重なり、長期的な負担となります。
Eurekaのシステムでは、類似ワークであればお客様自身で学習・追加が可能であり、高額なエンジニアリングサポートを必要としません。 この点は、システムの長期的なROIを左右する重要な要素です。
想定すべき故障モードとそこから得られた教訓
本稼働後によく発生するトラブル
本稼働後に最も多く見られるトラブルは、以下の3点です。
- グリッパの機械的な故障
- ロボットの繰り返し動作による、ケーブルやコネクタの緩み
- カメラマウントへの振動や衝撃によって生じる、カメラとロボット間のキャリブレーションずれ
中でもキャリブレーションのずれは、特に厄介な問題です。明確な異常としてすぐに現れるのではなく、配置精度の低下や断続的な失敗が徐々に増えていくという形で現れるため、再現が難しく原因特定に時間がかかります。
これまでに直面した最も難しい問題
これまでにデバッグした中でも特に厄介だった事例の一つとして、清掃スタッフがカメラの筐体を拭いた際に、カメラが0.1度未満わずかに動いてしまったというケースがありました。
カメラは供給ビンから1m以上高い位置に設置されていたため、このごく小さな角度のずれが、約1mmの位置認識誤差を生み、数百サイクルに1回程度の配置失敗を引き起こしていました。
対象ワークはレーザーレンズで、非常に厳しいクリアランスを持つコーティング治具への配置が必要だったため、わずかな誤差でも不具合につながる条件でした。このトラブルは発生頻度が低く、再現が難しいうえ、誰もカメラに触れたとは想定していなかったため、原因の特定が容易ではありませんでした。
そこから得られた実践的な教訓は明確です。カメラ周辺で作業員が「してよいこと/してはいけないこと」を明記したメンテナンスSOPを作成し、定期点検チェックリストにカメラの状態確認を必ず含めることが重要です。
投資以上の価値を生む予防策
明確なセル保守SOPの整備、四半期ごとの予防保全(定期点検)、そして出荷前または本稼働前に行う複数日にわたるストレステストは、 何年にもわたって安定稼働するセルと、継続的なサポート対応が必要になるセルを分ける決定的な要素です。
これらはいずれも目新しい施策ではありませんが、スケジュールが逼迫したときに最も省略されやすい項目でもあります。 しかし実際には、後々のトラブル対応コストを考えれば、十分に元が取れる投資です。
すべてのお客様にお伝えしていること
どれほど綿密に設計されたシステムであっても、生産現場では想定外の課題が発生します。
これは技術の失敗ではなく、複雑で変動要素の多い環境にシステムを導入する以上、避けられない現実です。
プロジェクトの成否を、技術的な要素以上に左右するのは、 生産工程を深く理解し、AIやロボティクスの現実的な能力を正しく把握した「お客様側の窓口担当者」が存在し、課題解決に協働する姿勢を持っているかどうかです。
うまくいかないプロジェクトの多くは、「引き渡したら終わり」という分業・丸投げの意識が見られます。 一方で、成功するプロジェクトでは、課題を双方で共有し、オーナーシップを持って取り組む文化が共通しています。
ROIと投資判断の考え方
最もシンプルな目安は、1日2シフト分で作業者1名分の工数を削減できるのであれば、検討に値するという点です。
より正確には、投資対効果は扱うワークの価値によって大きく左右されます。
- 高付加価値ワークの場合:1日あたり数百ピック程度でもシステム導入が合理的となるケースがあります。
- 小型の射出成形樹脂ワークなどの低付加価値ワークの場合: 1日あたり数千ピックが必要になるのが一般的です。
これらはあくまで初期検討のための現実的な出発点であり、個別プロジェクトごとの詳細なROI分析に代わるものではありません。
投資回収期間の目安
適切に要件定義されたプロジェクトであれば、2〜4年の回収期間が現実的な目安となります。 サイクルタイム要求が厳しいアプリケーション、扱いにくいワーク、頻繁なSKU変更を伴う用途では、回収期間は長め(4年側)になる傾向があります。
事前に整理・共有しておくべき情報
ワーク関連
- ワークの画像
- 可能であればCADデータ
- 同時に運用されるSKUの総数
- 新規SKUが追加される頻度
供給ビンに関する情報
- 空の状態および投入状態のビンの画像
- ワークが完全にランダムな3D状態か、ある程度の規則性があるか
- 上向きになりやすいワークの面
搬送先・配置先関連
- 目的となる配置コンテナや治具の画像
- 求められる配置精度
- 配置先の位置が固定か可変か
運用・要件関連
- 要求サイクルタイム
- 想定するROI目標
- 把持条件(指定された把持位置、把持禁止エリアなど)
安全要件・環境要件(作業者との協働の有無を含む)
本格導入前にプロトタイプすべきこと
私たちは通常、お客様の実ワークを用いたラボでのピッキングデモを推奨しています。
実際のハードウェアを使ってデモを構築することで、後になって高コストになる想定外の課題を、最も安価な段階で顕在化させることができます。
また、現実的なプロジェクト提案に必要な十分な情報を得ることが可能になります。
ワークが非常に特殊な場合には、机上でのフィージビリティ評価よりも、実機デモの方が投資対効果が高いケースがほとんどです。
このプロセスにより、アプリケーションに対する共通理解を双方で形成できる点も大きな価値であり、これは他の方法ではなかなか得られません。
アプリケーションのテストにご興味がありましたら、ぜひ お気軽にお問合せください。
成功するプロジェクトと苦戦するプロジェクトの違い
お客様側の要因で見ると、ポイントは一つです。
プロジェクトを主導する担当者またはチームが、生産工程と、AI・ロボティクスの現実的な能力と限界の両方を理解しているかどうかに尽きます。
技術的に高度な知識があっても、生産現場の理解がなければ十分ではありません。
また、生産に精通していても、技術に対する現実的な期待値がなければ成功にはつながりません。
この2つが揃ったとき、プロジェクトは成功します。
どちらかが欠けると、どれほど優れた技術であっても、成果を出すことは難しくなります。
おわりに
本ガイドにまとめた内容の多くは、数多くの導入経験と、累計3,000万回以上の量産ピックを通じて、試行錯誤の中から得られた知見です。
私たちは、この分野を代表するビジョンおよびAIエンジニアを擁し、極めて高い要求水準を持つ生産現場向けにシステムを構築してきました。
その中には、Pratt & Whitney、Coherent、丸和電子化学といった企業の生産設備も含まれます。
バラ積みピックの自動化を検討されており、自社のワークや工程に対して何が現実的に可能なのかを知りたい場合、実ワークを用いたラボデモから始めるのが最善の方法です。 それが私たちのやり方であり、現実的なプロジェクト提案へと最短でたどり着く、最も確実なアプローチです。ぜひ お気軽にご相談ください。
